富士山の最後の噴火は1707年の宝永噴火。このとき江戸(現在の東京都心)には2〜5cmの火山灰が積もり、空が暗くなって昼でも灯りが必要だったと記録されています。現在、中央防災会議の「大規模噴火時の広域降灰対策検討ワーキンググループ」は、同規模の噴火が起きた場合、都心部で最大10cm程度の降灰を想定しています。
まず押さえておくべきは、溶岩流は東京には到達しないという点です。富士山の溶岩流が及ぶのは山麓の静岡県・山梨県の一部で、東京から富士山までは約100km離れています。東京にとっての脅威は、上空の偏西風に乗って運ばれてくる火山灰ただ一つです。
東京の降灰量はどれくらいか
| 地域 | 想定降灰量 | 主な状況 |
|---|---|---|
| 富士山周辺(御殿場など) | 30cm〜1m以上 | 木造家屋の倒壊のおそれ。避難が必要 |
| 神奈川県西部(小田原など) | 10〜30cm | 車の走行不能。上水道の濁り |
| 神奈川県東部・多摩地域 | 10cm前後 | 交通は全面停止。長期の生活支障 |
| 東京23区 | 2〜10cm | 鉄道・道路・空港が停止。停電・断水のおそれ |
| 千葉県・茨城県南部 | 数mm〜2cm | 交通の遅れ、視界不良 |
※中央防災会議の想定に基づく目安。実際の分布は噴火の規模・継続時間・その時の風向きで大きく変わります。冬型の強い西風が吹いていれば東京方向へ、南風なら山梨・長野方向へと灰は流れます。
時系列で見る「東京に灰が降る日」
噴火から1〜2時間:灰が到達する
富士山から東京まで、火山灰は1〜2時間程度で到達します。空が灰色にかすみ、細かい粒子が降り始めます。この段階で気象庁から降灰予報が発表され、鉄道各社は運転見合わせの判断に入ります。
数時間後:交通が止まる
- 鉄道 — わずか0.5mm程度の降灰でレールと車輪の間の電気的な接触が悪くなり、信号系統に支障が出ます。首都圏の在来線・地下鉄(地上区間)は運転見合わせに入ります。地下鉄も換気口から灰が入るため、無傷では済みません。
- 道路 — 数mmの降灰で路面の白線が見えなくなり、雨が降ればスリップ事故が多発します。10cmを超えると二輪駆動車は走行不能です。
- 航空 — 火山灰はジェットエンジン内で溶けて固着し、エンジン停止を招きます。羽田・成田は降灰が確認された時点で閉鎖となります。
半日〜数日:ライフラインへの影響
- 停電 — 灰が碍子(がいし)に付着し、そこに雨が降ると電気が漏れて停電(碍子汚損による絶縁低下)が起きます。火力発電所の吸気フィルタ目詰まりも供給に影響します。
- 断水・水の濁り — 降灰が水源やろ過池に入り、浄水場の処理能力が落ちます。10cmを超える地域では上水道の濁りが想定されています。
- 通信 — 基地局の停電にともなう携帯電話の不通が広範囲で発生する可能性があります。
- 物流 — 道路と鉄道が止まるため、食料・日用品の供給が滞ります。都心のコンビニ・スーパーは数日で品薄になります。
数週間〜数か月:復旧
降り積もった灰は自然には消えません。東京都と周辺県で発生する火山灰の総量は約4.9億m³と試算されており、これは東日本大震災の災害廃棄物の10倍以上にあたります。除去と処分だけで数か月から年単位を要すると見られています。
東京で何が起きるか — 分野別まとめ
| 分野 | 影響が出始める降灰量 | 内容 |
|---|---|---|
| 鉄道 | 0.5mm | 地上路線が運転見合わせ。復旧はレール清掃後 |
| 航空 | 微量でも | エンジン損傷のおそれ。空港閉鎖・欠航 |
| 道路(乾燥時) | 10cm | 二輪駆動車が走行不能 |
| 道路(降雨時) | 3cm | 濡れた灰は非常に滑る。走行不能・事故多発 |
| 電力 | 数mm+降雨 | 碍子汚損による停電 |
| 建物 | 30cm+降雨 | 木造家屋の倒壊のおそれ(都心では想定外) |
| 健康 | 微量から | 目・のどの痛み、ぜんそくの悪化 |
富士山が噴火する確率はどれくらいか
富士山は過去5,600年間におよそ180回噴火した記録があり、平均すると30年に1回程度の頻度です。しかし1707年の宝永噴火以降、300年以上噴火していません。この空白期間が「次はいつでも起こりうる」と言われる理由です。
一方で、噴火の時期を正確に予測する技術は現時点でありません。確実に言えるのは、マグマが上昇すれば火山性地震・地殻変動として観測されるということです。富士山は常時観測火山として24時間監視されており、噴火の直前には前兆をとらえて噴火警戒レベルが引き上げられる可能性が高いと考えられています。現在の富士山の噴火警戒レベルは1(活火山であることに留意)です。
東京在住者が今からできる備え
- 防じんマスク(DS2/N95)とゴーグル — 家族の人数分。降灰後は入手困難になります。詳しくは火山灰の掃除方法を参照してください。
- 水と食料の3日〜1週間分 — 物流停止と断水に備えます。地震対策の備蓄がそのまま使えます。
- 養生テープと新聞紙 — 窓・換気口・エアコンの外気導入口を塞ぐのに使います。
- 徒歩帰宅ルートの確認 — 鉄道は確実に止まります。職場から自宅までの徒歩ルートと所要時間を一度確認しておいてください。
- 車のカバーとフィルタ予備 — 車を持っている場合、車体カバーがあれば洗車の手間と塗装の傷を大幅に減らせます。
- 停電への備え — モバイルバッテリー、乾電池式ラジオ、ランタン。降雨をともなうと停電の可能性が高まります。
地震対策の備蓄と重なる部分が多いので、追加で必要になるのは防じんマスク・ゴーグル・養生テープの3点と考えておけば十分です。
降灰予報の見方
気象庁は噴火が発生すると降灰予報を発表します。3つの種類があります。
- 降灰予報(定時) — 噴火警報が発表されている火山を対象に、噴火した場合の降灰範囲を定期的に発表。
- 降灰予報(速報) — 噴火発生後すぐに、1時間以内の降灰範囲と小さな噴石の落下範囲を発表。
- 降灰予報(詳細) — 噴火後20〜30分で、6時間先までの降灰量と地域を「多量・やや多量・少量」の3段階で発表。
富士山が噴火した場合、東京在住者が最初に確認すべきは降灰予報(速報)です。外出中であれば、灰が到達する前に屋内へ移動する判断材料になります。
よくある質問
富士山が噴火したら東京に溶岩は来ますか?
来ません。富士山の溶岩流が到達するのは山麓の静岡県・山梨県の一部で、東京までは約100km離れています。東京にとっての脅威は上空の風で運ばれてくる火山灰で、都心では最大10cm程度の降灰が想定されています。
東京にはどれくらい火山灰が積もりますか?
中央防災会議の想定では、宝永噴火と同規模の噴火で東京23区に2〜10cm程度です。1707年の宝永噴火では江戸に2〜5cm積もった記録があります。実際の量は噴火の規模・継続時間とその時の風向きで大きく変わり、冬の強い西風が吹いていれば東京方向への降灰が多くなります。
富士山が噴火したら電車は止まりますか?
止まります。わずか0.5mm程度の降灰でレールと車輪の電気的接触が悪くなり信号系統に支障が出るため、首都圏の在来線・地下鉄の地上区間は運転見合わせになります。地下鉄も換気口から灰が入るため影響を受けます。復旧にはレールの清掃が必要で、数日以上かかる可能性があります。
富士山が噴火する確率はどれくらいですか?
富士山は過去5,600年間におよそ180回噴火しており、平均すると30年に1回程度の頻度です。ただし1707年の宝永噴火以降300年以上噴火していません。噴火時期を正確に予測する技術はありませんが、富士山は常時観測火山として24時間監視されており、マグマの上昇は火山性地震や地殻変動として事前にとらえられる可能性が高いと考えられています。
東京在住者は何を備えればいいですか?
地震対策の備蓄(水・食料3日〜1週間分、モバイルバッテリー、ラジオ)に加えて、防じんマスク(DS2/N95)、密閉型ゴーグル、養生テープの3点を用意してください。降灰後はこれらが入手困難になります。あわせて、鉄道が止まる前提で職場から自宅までの徒歩帰宅ルートを確認しておくことをおすすめします。
降灰中に外出しても大丈夫ですか?
できるだけ屋内にとどまってください。やむを得ず外出する場合は防じんマスクとゴーグルを着用し、長袖・長ズボンで肌の露出を減らします。濡れた灰は非常に滑りやすいため、自転車・バイクの使用は避けてください。コンタクトレンズは灰の下で角膜を傷つけやすいので眼鏡に切り替えます。